採集

熊本へ旅立ったT先輩*1は某半島の西岸出身。普段はジェントルなモダリティを使いこなす彼も、ご母堂との会話では漁師町育ちの本領を発揮するのであった。引っ越しのどさくさに紛れて、携帯の充電器がないないと大騒ぎの一幕、



ご母堂(台所から):


そこにあるのは、お母さんのだらぁ


T先輩(確認して):


俺のだじゃん!



久しぶりに方言を採集した瞬間。私は一人で「だ」に関する分析*2を試み、しばし陶然としたものである。ちなみに、この「〜だじゃん」は、T先輩によると強調の意味で使われており、


「ここにあったお菓子は?」
「姉ちゃんが食っただじゃん」
「あ、ほうか」


などと、頻用されるらしい。私の身に付いた言葉で言うと、「〜だじゃん」は


「〜じゃねえかよ、オイ」


にあたる。まあ、どちらもガラが悪い。彼の地の方言には他にも、


お茶入れてクリョウ*3


などがあるというが、この「クリョウ」については地元の人も滅多に使わないらしく、「恥ずかしいからやめろ」と言われていますよ、わはは、と笑うT先輩であった。

*1:このごろ先輩ネタが多いな

*2:「〜だじゃん」を分解すると、「〜だ」+「〜じゃん」となり、「〜じゃん」はさらに「〜じゃないか」=「〜ではないか」に復元できるので、全体を復元すると「〜だではないか」つまり畳語法非文(二重断定)なのでは?と当初考えるも、「〜だ」を「〜だったじゃん」=「〜だったではないか」(完了の強調)の「〜だった」の完了アスペクトが進行アスペクトになっているものと見れば、当該文は非文ではなくむしろ今では「〜じゃん」=「〜じゃないか」=「〜ではないか」により代替された”現在アスペクトにおける断定の強調”という原初の用法が方言空間に保存されたものと捉えることができる

*3:予想の範囲内であるが、「お茶入れてちょうだい」の意